新本格魔法少女りすか/西尾維新 2007


新本格魔法少女りすか (講談社ノベルズ)

彼女の手首には、彼女の瞼よりも大きな瞼が閉じられていて、ウインクしているか眠っているみたいだったけど、月明かりに映ると今にもパチっと開きそうで、ゾクゾクした。最近の外科縫合用の糸が黒いこと、結び目が睫毛のように処理されていることを俺は知り「クローネンバーグ・ミーツ・マン・レイってとこだな」と言ってタクシーの上の月に向けて苦笑を漏らした。しょうがねえよな。全部しょうがねえさ。

菊地成孔「スペインの宇宙食


語り手 小学生供犠創貴と魔法の国「長崎」からやって来た「魔法使い」水倉りすか
二人はりすかの父であり「魔法使い」水倉神檎を探す手がかりを得るため、長崎から抜け出して来た「魔法使い」を狩り戦う。


化物語がアニメ化される西尾維新の「新本格魔法少女りすか」シリーズの第一作。
連作短編形式で一巻には「やさしい魔法はつかえない。」「影あるところに光あれ。」「不幸中の災い。」の三話。
以降三巻まですでに出ていて、最終巻「新本格魔法少女りすか0」が出るとのこと。


サンプリングについて。
個人的な知識で気付いた範疇のみ。
「魔法の国長崎」って言う世界観は菊地秀行の「魔界都市新宿」を連想させる。
ある日マグニチュード8以上の直下型地震が新宿のみを襲いその日から新宿は無法地帯「魔界都市新宿」になった..って言うような。

冒頭のラヴクラフト「ダークサイダー」の引用からわかるように本編にもクトゥルフ神話からの引用が見え、りすかが書き写している魔法書のタイトルが「妖蛆の秘密」「屍食経典儀」「セラエノ断章」「ドール讃歌」エトセトラ....クトゥルフ神話に頻繁に登場する書物の名前が使われていたり、りすかの父水倉神檎の二つ名「ニャルラトテップ」はクトゥルフ神話に登場する「ナイーアラトホテップ」と呼ばれる「無貌の神」から採られている。
りすかが血の海から復活する際の「にゃるら」も同様。
だからラノベ版クトゥル神話体系の一作、と読めなくもない。
とはいえティンダロスの猟犬もインスマス顔の男も出て来ないが。


りすかの名前はリストカットからだろうし、だから腰にはカッターナイフを下げ出血することで能力を発揮する。
水倉破記の手首の大きな傷も同じく。
供犠創貴は、供物の「供」と犠牲の「犠」そして「創」の読みを「きず」と読み「傷」を連想させる音になっている。
瑕、疵、傷がキーワードか。傷つけることか傷つけられることか。


「魔法」と言うものがいわゆるRPGでの「道具」的スキルでは無く、「生まれついた属性に起因する1つの特殊能力の具現化」のように表現されていて、感覚としては「ジョジョの奇妙な冒険」のスタンド(幽波紋)に近い感覚があって、特に第三話「不幸中の災い。」に登場する水倉破記の「血を浴びせた相手は血を洗い流さないかぎり死ぬまで不幸がつきまとう」魔法はそれを連想させる。
特殊な状況と特殊な能力、それに対抗する為の知恵と機転。


魔法少女がバトンやコンパクトで魔法を使うのに対して、りすかはカッターでじぶんを傷つけ魔法を使い、瀕死に陥ることで変身を果たす。
変身は「魔法の天使クリーミーマミ」「魔法の妖精ペルシャ」などの「変身することで少女が成長する」昭和魔法少女*1を思わせ、この作品では「成長+能力値の増大」系変身で魔法少女という形質を表現する。
新本格魔法少女」というタイトル前部は、現代の「新本格ミステリ」がクリスティやクイーンなど先に書かれた黄金時代の作品群を「本格ミステリ」と呼び前提とした上での「新本格」だったように、先行する昭和魔法少女と言うキャラクターを前提とした上での現代における魔法少女を「本格」として=新本格魔法少女と言う事なんじゃないだろうか。
少なくとも本編内に新本格ミステリ的要素はみられない。


二巻以降の主軸になる対「長崎の城門を越えた6人の魔法使い」話への前提としての第一巻で、キャラクター小説としては充分面白く読めるし、語り手の精神が随分とドライだったり、イタい話が多く救いが無いのも西尾維新らしいところ。キミとボクだけの「セカイ系」な物語。

ピピルマ ピピルマ プリリンパ パパレホ パパレホ ドリミンパ
ドッキンハートに まばたきショット
天使の羽はないけれど 夢が心にあふれていれば
ミンキーステッキが 使えるはずね

魔法のプリンセス ミンキーモモED「ミンキーステッキ・ドリミンパ」

*1:近年「セーラームーン」や「プリキュア」など平成の魔法少女には変身での「能力値の増大」はあっても「成長」はみられない