少林少女/2008日


「パクリ」って言葉が好きじゃあ無い。
何でもかんでも類似品=パクリって呼べば良いって言う薄っぺらな言語センスは好きじゃない。
「ぱくる…(俗)かっぱらう・盗み取る」であって、少なくともこの映画には当てはまらない。
なにせエグゼクティブ・プロデューサーがチャウ・シンチーなんだから「本家容認」で「勝手に盗み取った」もんじゃあない。


だからってこの作品が良い訳じゃ無い。
大筋は本家「少林サッカー」「カンフーハッスル」と同じく「少林拳」を軸に、スターウォーズのシスの暗黒卿×ダースベイダーのエピソードを思わせる関係とか、『死亡遊戯』の「レッドペッパータワー」(つーか、レッドリボン軍の「マッスルタワー」か)なんかのガジェットを一緒くたにした感じ。
これらを「パクった」ってんなら話も判るが。


この映画の失敗は「全体のバランスの悪さ」ってとこにあると思う。
この映画って前半の「柴咲コウの成長物語&友情やチームワークの大切さ:ラクロス少林サッカー」パートと後半の「死亡遊戯」パートに別れる訳だけども、前半の「ラクロス編」パートの比重が非常に重くって、後半の「死亡遊戯」パートへ伏線張りまくってんのかと思いきや、あっさりと別物語みたいになってる。


普通に考えれば「塔」の一番下で山ほど的が襲ってきた時点でラクロス仲間がやってきて「ここはアタシたちに任せてあなたは先に行って!」って覚えたての少林拳で「犠牲と友情」って王道をやるんだろうに。
ところがいきなり少林サッカーのメンツが登場して助けるとかって展開を観客は期待してない。


前半のラクロス編で主人公の柴崎は「チームワークの大切さ」ってスキルを得た筈なのに、後半戦には一切生かされず、前半出し惜しんでた武闘派な面を出しつつしょぼい塔を昇って行く。
出てくる敵もインパクトに薄く、ブルース・リーの偽物の倒し方はインディー・ジョーンズをやりたかったんだろうけど、今ひとつ面白くも無くあっさりやられて、あれなら「リーの偽物だけど強い」って方が余程面白い。
で、武闘家三人組のコンビネーション攻撃も黒い三連星ほどのコンビネーション攻撃があった上で、それが撃ち破られるってんならまだしも中途半端な攻撃が中途半端に決まって、そのコンビネーションをようやく破ったと思ったら岡村が登場して終了。


で、岡村のパート。
出てきた時には結構期待させる割に、岡村自体のアクションもそれほどキレも無く、残念ながらワイヤーアクションに体がついて行けてない。ブレイクダンス的な動きは流石なんだけども。
ラスボス前の中ボス、ってんだからもう少し強かったり「気」を使えたりしても良いだろうに。
オーラ力を少々放出して終了。


んで柴咲コウのアクションのキレの無さ、これが致命的。
身体が今ひとつ硬いし、ワイヤーで吊られた時の動きがいまいち上手く無い。
当然、連続した殺陣は出来ないから短いシークエンスの切り貼りで、それがスピード感と迫力を削いでる。


ラスボス、仲村トオル戦。
もう言う事も無いけども、前述したシスの暗黒卿×ダースベイダーと同じく暗黒面へ引きずり込もうとするって意味で「鉄コン筋クリート」のイタチ×クロも連想させる。
仲村トオルの直突きはいただけないけども、ストレートはさすがに及第点。
前半で「仲村トオルがいかに悪人か」って部分を強調しきれてないから「学長の何が悪人で、なんで暗黒面なんだろう?」って部分が伝わって来ない。
例えば「軍需産業と手を結んでて、育てた生徒を人間兵器として戦地へ送り込む」とかってプラレス三四郎みたいな事をもっと描いたり、「実はロボトミー手術で生徒を改造人間にしてる」とか、悪逆非道な人物像ってのが見えないのが完全な欠落。


前半の寒々しい「ラクロス編」を描くんなら後半は無くて良いし、もし後半戦を主として描くなら前半はあの半分のサイズで良いし、コメディ要素をメインにしたいならもっとコメディ要素が必要だし、シリアス要素を描きたいならコメディ要素は余分。
過剰なアクションを描くなら柴崎のアクションにいちいちエフェクトをかけて、もっと過剰なくらいに派手派手強いアクションにすれば良かったのに中途半端で、リアルにするならするで半分コメディみたいな壁のぶち抜きとかは必要無い。


そーいうバランスとか、ガジェットとか、ディテールが気にならない人なら「面白い」と感じるかも知れない。
例えどこかで観た事のあるような過去作のパーツを切り貼りして、わざとらしい演出と、バランスの悪い脚本と物語と、笑えないコメディでも面白いと感じるなら観る方が良い。
ま、主題歌がmihimaruGTってのが一番のコメディ。
ちなみに江口を踏んづけた時の「顔の横で足を上げる」上げ方は伝統カンフー映画ならではの動きで好。
そこだけは高評価。