RIOT CITY BLUES/PRIMAL SCREAM 2006


ライオット・シティ・ブルース(紙ジャケット仕様)


RADIOHEADは「IN RAINBOWS」を発表し、その音は『かつてのOK COMPUTERを思わせる音』と評され、PEARL JAMは新作で昔ながらのハードな音を響かせ、TOOLは初期作のようなハードなリフを取り戻し世界が明確になって。
「原点回帰」ってのがここ数年のキーワードになってるように思える。

日本盤のライナーノーツに『Give Out But Don't Give Upに近い』と書いてあるんだが、確かにこれ以前数作のPRIMAL〜のいわゆる『デジロック』な音作りからすると随分と初期作へと帰ったアナログな音を鳴らしているように思える(とは言え『Give Out But Don't Give Up』はもっとブラックでファンクだけれども)。
音は実に『アメリカ』でカントリーで、ロックで、R&B。
デジロックも、ファンクも今回は、おあずけ。
メンバーリストにケヴィン・シールズ*1のクレジットが無い、ってのが『デジロック離れ』の理由だろう。

金色の地に蛇を肩に乗っけた少年。
蛇はやっぱり『天国の蛇』だろうから悪魔のイメージで、純真無垢な少年をたぶらかそうとしてる。
で今回のアルバムテーマは『アメリカ』だから、少年=アメリカにとっての『アメリカをたぶらかす悪魔』って連想は深読みし過ぎか。


PRIMALは色々と政治的なメッセージを発する事も多く(かつて『Bomb The Pentagon』なんて曲もありましたが..とはいえそんなに深い意味は毎度無いんだけども)今作の『アメリカ』な音もこれが発売された当時の(湾岸戦争以降の..ブッシュの)『病み狂うアメリカ』に対するアンチテーゼなのかな、と言うのはまたまた深読みのし過ぎか。
シングル『Country Girl』の『バカなアメリカ娘』ってPVも『種を撒いたら自分で刈り取る事になるんだから』って部分も当時のアメリカを当てはめると見えるんだけども。
まぁ正直ボビーがそこまで考えてるかどうかというと....。
ラリって文句言ってるだけって感じはしなくもない。


昨今のいわゆる『THE STROKES以降の..ロックンロールルネッサンス*2とか懐古趣味とかの』世代に対する答えと言うか『お前ら流行りの新人バンドが昔の音をパクって色々デビューして来ようとオレらはこれだけ出来るんだぜっ!』ってボビーがせせら笑ってるような余裕。
昔、『どっかからレコード引っ張り出して一生懸命しこしこターンテーブルで擦ってるラッパーを横目に、プリンスがあふれる才能を使って自分でバックトラックを完全に作った』って逸話みたいに。


「愛」だの「恋」だの誰が「好き」だの「嫌い」だの、ウダウダ繰り返し、使い古されて半分腐りかけてんのに気づかず使い回して、五年、十年後にはすっかり聴かれなくなるような自称『ロック』な音とは違う。
そういうのは『ロック』ではなく『ポップス』でしかない。
ただのジャンクフード。
甘ったるく解り易く合成甘味料で味付けした、感性を愚鈍に麻痺させる子供騙しのおんがく。


正義とか悪とか、愛だの恋だの関係なく、意味なんて必要とせず、深さなんて関係無く、迷惑かけまくって、好き放題暴れまくって突っ走って最後にはブチ壊れるような、アメリカンニューシネマみたいな音楽。
クスリ食いまくって、イビザ島での狂乱*3が終わっても、踊り続けてるような。
それが『ロックンロール』なんじゃねーの?っていう。
クズ音楽、マイノリティなダメ人間の救済音楽、それで充分。
高尚さなんて必要じゃないし、薄っぺらくって、格好良けりゃそれで充分。

Primal Scream - Country Girl (Live @ Jools Holland 2006)

*1:My Bloody Valentineのリーダー

*2:日本の某音楽雑誌が作り上げた造語。THE STROKES以降にデビューした原点回帰なギターロックサウンドを鳴らす若手バンドを指す

*3:1980年代にスペインのイビザ島からDJたちがLSDをイギリスに持ち帰りそこからレイヴ・カルチャーが萌芽したとされる。セカンド・サマー・オブ・ラヴ