沈黙のフライバイ/野尻抱介 2007


沈黙のフライバイ (ハヤカワ文庫JA)

サイエンス・フィクションの一形式であり、科学性の極めて強い、換言すれば科学的知見および科学的論理をテーマの主眼に置いたSF作品を指す。また、そのようなスタイルを指す。

wiki ハードSF


クレギオン』のノベライズシリーズでデビューした野尻抱介のハードSF短編集。
完全に仮想ばかりでは無く、実際的な科学的根拠にのっとったSFってとこがスタートレックとかスターウォーズとの違い。



【沈黙のフライバイ】
宇宙に向けられた巨大なパラボラアンテナに、近傍の赤色矮星からの探査機が太陽系に向かっていることを示す有意信号がキャッチされる。科学者は大慌てで自らの存在を示そうとする……。

『未知との接近遭遇』ではなく、あくまでも間接的に『探査機』という存在を通しての接近遭遇。
科学者や地球人は宇宙に住む他の存在と接触したがるが、果たして他の存在はどうなんだろう。


【轍の先にあるもの】
宇宙へのロマン、を中心に書かれた私小説的な面持ちのある短編。
当初は写真でしか観れなかった小惑星の表面に、自身の足で降り立って....なんてSF好きからしたら夢の世界。


【片道切符】
無重力セックスって言うと『さよならジュピター』を思い出すのは歳のせいでしょうか。
そら、あんなに綺麗に飛んだりしないわなぁ。


ゆりかごから墓場まで
電気さえあればスーツから外に出る事無く生涯生きられる『C2Gスーツ』
しかしそんな『夢の装置』も第三世界ではただの『高く売れる機械』でしか無い。
巧く利用すれば扮装や飢餓すらなくなる装置でも結局覇権争い、領土争いに利用される、
..っていう浅はかさはどれだけ時間が経っても解決しない、ってニヒリズムなお話+α。
生きるってどういう事なんでしょう。


【大風呂敷と蜘蛛の糸
第38回 星雲賞日本短編部門受賞。
大規模な国家クラスの宇宙開発では無く、女子大生の発言が切っ掛けになる大学+民間企業のマニファクチュアな宇宙開発物語。
「そんな事できっこない」と言うんじゃなくて「やれば出来る」っていう実行力、人間の意思が女子大生を成層圏まで引っ張り上げる。『遠い空の向こうに』とか『ライトスタッフ』とか、科学的進歩を支えるのは夢想家の夢とか、人間の根源的フロンティアスピリット。
こういう話にはドキドキさせられる。


やはり野尻抱介らしくドラマ部分の作りが上手く、科学的考証もなされた硬派な物語。
手のひらサイズの、触れれば暖かくて、手が届きそうな、そんな『身近』で素敵なSF短編集。
一つ一つがとても端整で、夢想家のロマンシズムが底辺を流れてても、そこに科学的なしっかりした考察が見え隠れして、ほんとよく出来てる。
んで文章も巧い。