12MONKEYS/1995米


12モンキーズ [DVD]

【続きネタバレがありますので自己責任で】

一人で生きろよ つらくとも死ぬな / また会う日まで 御機嫌よう
苔のむすまでに 愛し合うはずの二人が / 予定調和の中で 離れ離れになる
何も出来ないで 別れを見ていた俺は
まるで無力な俺は まるでまるで高木ブーのようじゃないか

テリー・ギリアムのSFラブストーリー。
テリー・ギリアム作品の中で一番エンターテイメントで、かつアーティスティック。
ギリアムっぽいブラックなニヒリズムもあり、一番入りやすいテリー・ギリアム入門」作品は、これじゃあないだろうか。
タイムトラベルをテーマに『サマータイムマシンブルース』的な『未来の変革』展開を望み、しかし時間は無情に流れを変える事無く予定調和を全うする、ってのはタイムトラベルものとしては結構珍しいシニカルな展開。
つまりいかにもギリアムっぽい。


ブラピは、この役をやりたかったらしくってかなり気合いの入った狂人っぷりを演じるんだが、実は色男の役よりも『トゥルーロマンス』の時のジャンキー役や『ファイトクラブ』『スナッチ』の時の野蛮な役の方が活き活きして見える。
(全く知らずに観た場合)『カッコーの巣の上で』的な精神病院の描写を挟む事で、ただのSFではなく『もしかすると全てブルース・ウィリスの妄想なんじゃないだろうか』という可能性も残しつつ、最終的にはタイムパラドックスをも含んだループ構造になってる良く練り込まれた脚本。

最初、コールの未来から来たって言う話を信じていなかった精神科医のキャサリンマデリーン・ストウ)も事実の積み重ねから彼の話を信じていく。
狂気が正気を浸食し、正気と狂気がパラダイムシフトする。
キャサリンが(発信器が入ってるからって)歯を抜いたホームレスを捕まえて真剣にコールの事を語ってるシーンが象徴する構造。

二人は逃げ、夜の映画館、ヒッチコック特集で上映されているのは『めまい』
愛する女性を救えなかった男が、救えなかった女性に似た女性を愛するお話。
かつて、幼い頃に見たキャサリンと過去で出会うコールは彼女を愛する。
..まぁ、作中の場合は同一人物なんだけども。


全てが予定調和。
過去に送り込まれ、12モンキーズの謎を追い、しかし細菌を止める事は出来ず、幼い頃見たように銃弾に倒れるジェームズ・コール。

胸から血を流すジェームズの横で彼を見つめる幼い頃のジェームズ。
彼を見てキャサリンが笑顔を見せる感情は『彼とまた会える』でもあるだろうし、『彼がまた世界を救ってくれる』でもあるでしょう。
彼は少なくとも死なず、閉じた時間の環の中で生き続けている訳で。


12モンキーズは関係無い』
彼が未来に伝えた電話から逆探知し、時間を特定する事が出来た。
飛行機に乗り込んだ『世界に細菌を撒く』犯人の横に座る『救済保険業』の女。
コールは失敗したが『保険』はその後で効力を発揮する。
未来から、過去を変える為に送り込まれた女性のその後は......。

まぁ、時間の改変が行われるんでしょう。
このシーンがある事によって最後のコールの電話から環状構造だったループに破綻が生じて、時間のズレが始まった、と言う風にも観れる。


しかし性格の悪い人(ニヒリスト)なら『映画で描かれた全てが予定調和だった』と考え、最後の『救済保険業』の女も細菌を阻止出来ず、結局世界は破滅する、って見方も出来なく無い。全ての行為は予定調和の中。
弥勒菩薩の掌上の猿。
そうすれば何の破綻も無く、世界は環状構造のまま。
世界は予定通り破滅する。
その辺りの判断は見る側に委ねられてる。

君といつまでも愛していたかったよ 
君といつまでも 二人でいたかったよ