THE ASSASSINATION OF RICHARD NIXON/リチャード・ニクソン暗殺を企てた男 2005

うだつが上がらず何をやっても上手く行かない中年男、サム・ビック。
家庭は既に壊れ、別居中の妻には新しい男が居り、三人の子供に自由に会う事も出来ない。
家族を取り戻すためサムは家具のセールスマンになるが、疎外感を感じ、巧く立ち回れず、結局仕事をクビになってしまう。
独立して行おうとしていた仕事も失敗し、妻からは離婚届が送りつけられて来る。
何もかも無くしたサムはただテレビを見続け、その中に映る合衆国大統領リチャード・ニクソンこそアメリカを腐敗させ、自分の夢を打ち砕いた相手だと確信する。


世の中には巧く立ち回れる人種と、巧く立ち回れない人種の二種類が居ると思う。

自分の事を考え、誰よりも自分が一番好きで、
口先だけで嘘をついても良心をそれほど痛める事も無く、
人間関係を作るのも巧く、ある種の諦観と利己主義を巧く使える人種。
考えなくても良いのに他人の事を考え、気を遣い、
正直で、純粋すぎて、嘘をつく事で心が痛み、
自分を追いつめ、臆病で、人との距離を巧く測れない人種。


自分は前者でありたいと思うし、後者でありたく無いと思う。
裏切られるのでは無く、裏切れる人間になりたいと思う。
嘘をつかれるのでは無く、嘘をつく人間になりたいと思う。
逃げるのでは無く、追いつめる人間になりたい。


さて、後者の代表のような小人物サム・ビックっていうのは社会に多く存在する。
何をやっても大概上手く行かず、小さな事で喜び、始めから何かを手にしている訳では無く、気がつけば手には何も掴んでいない。
『きっと自分にしか出来ない事が必ずある』と信じて生き、
でも気付けば歳をとり、自分には何も無い事に愕然とする。


自分は特別だ、と思い込んでいるのは自分しか居ない。
誰にとっても大した存在では無く、居ても居なくても良い人種。
死んでしまっても誰も思い出さず、何一つ残さなかった人。


自分が上手く行かないのはシステムのせいだ。
何もかも無くし、責任を自身に求めるにはあまりにも何も無く、
自分が良かれと思ってした事が全て裏目に出て、自分は何も悪い事なんてしていないのに、
悪い事をして適当にしている人間こそが巧く世渡りをして幸せを掴んでる。
そんな世の中を作った人間こそ殺すべきだ。


大まかに言えば『タクシードライバー』のような映画。
何もかも全て失敗した『タクシードライバー』。
ショーン・ペンの演技はさすが素晴らしく、ダメ人間も実に巧く表現してる。
ほぼフィクションなんだけども実際に「こんな事件があったとしてもおかしく無いなぁ」と思わせる。
細かなディテール部分なんかもこだわって作ってるのが伝わって来る。
9.11にもインスパイアされたらしく、通じる部分は意図的か。
何もかも無くしたサムがテレビを見続けて、自己啓発のテープを聴いて暗殺を思い立つシーンは暗喩的に「テレビと言う洗脳装置」を指してたりするようにも思える。


社会を良くするにはテレビを壊せば良い。
ニュースなんていらないのに。
自分の手の届く範囲の物を確実に手にして、足を地につければ人間なんて生きて行けるのに、
無駄な情報なんて必要無い。