BIRTH/記憶の棘 2004米


I never saw it happening
I'd given up and given in
I just couldn't take the hurt again
What a feeling


冬の公園。
一面を白い雪が覆い尽くし、枯れた木がほっそりした枝を伸ばす下、黒いパーカーを着た人物が雪道を走って行く。トーンを落とした白と黒だけのモノクロな世界。
淡々と走る人物を追うカメラ。
やがて人物はトンネルに通りかかり、足を止める。
呼吸が速くなり、苦しそうに身体を歪め、倒れる。。

もし妻が亡くなり、その翌日 窓辺に小鳥が飛んで来て
僕を見つめ こう言ったら?

『ショーン、アナよ 戻って来たの』
僕はどうするか?
きっとその鳥を信じ一緒に暮らすでしょう。

10年前に夫のショーンを心臓発作で失った未亡人アナ(ニコール・キッドマン)は、長年自分を思い続けてくれたジョゼフ(ダニー・ヒューストン)と再婚することを決意する。
しかし、そんな彼女の前に見知らぬ10歳の少年(キャメロン・ブライト)が現れ、
「僕はショーン。君の夫だ」
と名乗る。


 監督は、RADIOHEADの「KARMA POLICE」「STREET SPIRIT」、U.N.K.L.E「RABBIT IN YOUR HEADLIGHTS」のPVで有名なジョナサン・グレイザーhttp://www.submarinechannel.com/content/pause/musicvideos/mainMusicVideos.html)。
他BLUE「UNIVERSAL」とかマッシブアタック「KARMACOMA」のPVが顕著だと思うんだけど映画「シャイニング」「時計仕掛けのオレンジ」とかキューブリック映画へのオマージュ的映像が色々とあったり、PVといってもヴィジュアル的な面からのアプローチだけでは無くってキリスト教的奇跡「RABBIT IN YOUR HEADLIGHTS」や短編小説みたいな「KARMA POLICE」のPVみたいに短編映画のようなストーリーがあるものも多かったり、と単純に映像表現だけでは無く、映画への興味も昔から強かったように思う。

かなり以前に購入した「DIRECTORS LABEL ジョナサン・グレイザー BEST SELECTION」に(DIRECTORS LABELボックスセットで買ってたんですが)この映画の予告編だけが入ってて「いつか観れんのかなー」とか思っててやっと観れた。
相変わらずもう一本の監督作品「SEXY BEAST」(http://www.bacfilms.com/site/sexybeast/video/ba.mov)は観れないままですが..。



岡崎二郎「アフターゼロ」ってSF漫画短編集(雰囲気は..藤子不二雄っぽいSF)に「大いなる眠り子」っていう話がある。
死んだ夫の魂が赤ん坊に乗り移って、実は殺人事件だった自分の死の真相を夫婦(見た目、母親と赤ん坊ですが)で解決する、って言うお話で、なかなか面白く読んだ記憶がある。
でもこの映画ではそんな『生まれ変わり』で禁忌なものを描いてる。


夫の事が忘れられず、ようやく新しい相手と結婚する事になった未亡人アナ(ニコール・キッドマン)の前に現れた死んだ「夫」を名乗る少年。
アナは最初信じないがやがて少年を夫の生まれ変わりだと信じるようになる。
いや、信じたい。
本当に愛していればいるほど、一度失った心の大きな「欠落」は決して癒される事は無く、澱のように心の奥底、いつまでもそこにある。
アナが婚約し新しい夫を向かえたとしても「欠落」は真の意味で癒される訳では無い。
でも、その「欠落」から目を背ける事は出来る。
痛みを和らげる為の中和剤。
「欠落」から逃避する為に行った新しい男性との「婚約」だったが、失った夫の代用品には、なり得ない。
だから少年が夫だと信じた途端、アナは婚約を解消し、少年と駆け落ちしようとまで考える。
例え外観が少年であろうと愛した「夫」であれば、それは心の「欠落」を埋める事が出来る。

しかしジョナサン・グレイザーはファンタジーを描かなかった。
あくまでも扇情性にグロテスクに「少年とのSEX」を想起させたり、入浴シーンを描いたり、とリアルに「もし生まれ変わりが事実だとすれば当然立ちはだかる問題」を描き、そこがファンタジーの「アフターゼロ」とは大きく違う部分なんだろうと思った。
東野圭吾「秘密」でもとりあげていた「外観は別人でも中身は愛する人
だとしたら愛せるのか、と。

そして映画では、少年は偽物だと描く。
少年は手紙に感化されただけだ、とアナを突き放す。


「夫」を再び失ったアナは元の婚約者の元に行って手のひらを返したように謝罪し、婚約してもらうように頼み込む。
現実は残酷で、アナは耐えられない。
痛みを和らげる為の中和剤。
欠落を埋める為の代用のパーツ。
しかし結婚式当日、アナは浜辺で泣き、打ち寄せる波に立ち尽くす。
夫を無くした「欠落」は再び目の前に現れ、失った夫はやはり永遠に帰らないと言う現実を突きつけられる。
心に走る痛みを誤摩化す為の『結婚』も誤摩化しきれない失望。
アナを抱き寄せる新しい夫の姿も眼に入らない虚無。
そんな絶望の中、映画は終わりを迎える。


ただOP「もし妻が〜」以下のショーンのモノローグは誰に語っているかは定かでは無いけども(言葉の使い方から相手はアナではない)、そのモノローグは「ショーンが少年として生まれ変わった時、そのアイデアを覚えていた」ともとれるように出来ている。

生まれ変わった時に記憶を全てリセットされて新たな身体に転生し、再び新しい命を歩むショーン。
しかし10歳になったある時、偶然にも埋められた手紙を見つけ、自身がアナの夫のショーンだった事を知り、アナに近づく。
そしてそれはショーンが愛していたのはアナであって、愛人であるクララ(アン・ヘッシュ)を愛していなかったとも言える。

非常に淡々とした映画で、一つ一つのシーンを端整に描いているので、シーン毎の完成度は高いものの、お話全体のテンポとしてはちょっと間延びする部分があるかも知れない。

What a feeling in my soul
Love burns brighter than sunshine
Brighter than sunshine
Let the rain fall, i don't care
I'm yours and suddenly you're mine
Suddenly you're mine /And it's brighter than sunshine

[BRIGHT THAN SUNSHINE/AQUALUNG]