ハチワンダイバー 11/柴田ヨクサル 2009


ハチワンダイバーも11巻を数える。
相も変わらずのテンションだし、毎度語ると同じ事になってしまうのだけど。

この巻だけに関して言うと、まず前半のvs右角編は、右角のキャラ&テンションが前半より後半化けの皮がはがれて直ぐに落ちて行ったのが気にはなったけども、そこからそよの過去&澄野編でまた1つ展開が変わるので、その前と言えばそんなもんか。
そよの100面指し展開は、また「そよが一からハチワンと同じく一人一人倒す」展開は、既にハチワンが強敵を軒並み倒してる時点で望むべくも無いし、そんな二度目の展開を読者も望んでないし作者だって描きたく無いだろうし。
必然的といえる。


あのロックへの傾倒っぷりは、かなりシンパシーを感じた。
自分んと被る部分が多かったからかも知れないけど。
ロックにあったからこそ救われた。。
..と言うか自分の場合はダメになった気がしないでもないが。
「頭の中にロックをぶち込む」感覚よく解る。
ほんとロック音楽はクソくだらないゴミなんだけど、魅力的過ぎる。
個人的にはまだ青いHIGH TIMEよりもCASANOVA SNAKEの「デッドスターエンド」とか、やっぱり頭のリフだけで意識を持って行かれそうになる「世界の終わり」かなぁ。。


周知だと思うが、漫画の文法でコマ割りって言うのは時制の役割も果たす。
1ページあたりのコマが少なければ時間の経過は早いし、コマが多ければそのページでの時間の進行は遅く読める。
必ずしもそうで無い場合もあるが*1大コマとは通常そのように使われる。
そして大コマの中の画の密度によってもその意味合いは変わるし、コマ割りと言うのも漫画家の技術や技法が見れる面白い部分の1つと言える。


柴田ヨクサルの場合、大ゴマは時制で言えば確かに早い。
しかしそれより、この漫画の大ゴマは「いかに大きな文字を入れ込む事が出来るか」っていう部分をかなり意識していると言える。
作者の気持ちが入って、テンションが上がって、盛り上がったところに来ての大ゴマ。
そこに入るセリフ。
太々としたゴチック体もあれば極太アウトラインのフォントも使われる。
コミックが手元にあるなら意識してみて見ると判る。
1つのページに一体いくつのフォントが使われているか。
どんなセリフに使われているか。
入り口のハイテンション、物語の盛り上がり場、決め画。。
そう言った場所のフォントはことごとくデカく太い。
気持ちが入っている場面だからこそ時間が過ぎるのは早く、リズムがあり、気合いが入って文字も大きくなる。


コマ割りの技術をとりあげると一番興味深かったのは第111話「俺の世界に」P140-141。
まずビルの谷間で打っている将棋をビルの上から押さえたコマ。
集中線がコマの周囲から中央...つまりビルの谷間で行われている将棋に向かっていて、そこに将棋を打つ「ペタペタ」言う吹き出しを伴ってまるでズームのような効果を果たしている。
それがP140の右上半分を占め、そのコマは左P141にまで浸食している。
P141に続く横のコマはその大コマの続き...ズームした先の詳細..つまり将棋を打っているのを見下ろし拡大した画になっている。


そして読者の視線は再びP140に戻る。
P140右下のコマ→隣→P141下コマ→隣。
それぞれに横方向の集中線が描かれ、漫画内でも横方向の画の移動が行われる。
自然読者の視線は右のコマから追って左へ平行移動する事になる。


まとめるとP140-141で読者の視線は逆Z状に移動し、集中線の動きによって
上コマ)上から下へのズーム
下コマ)右から左への横移動
と漫画内の動きも違う。
【P140-141解説図】

赤線:読者の視線(物語の進行)
青線:物語内の視点移動


上下二段に分けてのコマ割りなんてなかなか見ないし、一次元的でない演出技法も高野文子*2と言ってしまえばそれまでなのかも知れないが、柴田ヨクサルの漫画技法の今の完成度の高さを示してる1つの例えになるんじゃないだろうか。
やっぱり「谷仮面(過去記事)」からずっと格闘漫画を書いて来て、漫画の中で登場人物を三次元的に動かして来た作者だからこそ、漫画内での空間を把握出来ているんじゃないだろうか。


今回の対戦相手、右角の格好って黒シャツに赤ネクタイ。
作中にも出てきますがミッシェル。
この頃の格好でしょう。

緑のニットはどうだ?とは思いつつ。
vs右角編ではP18のHIGHTIMEを聴いた一発目の「ドン」
これに尽きる。
というかこの一戦、実はここが一番のピークだったりする。
将棋戦での動的な部分って「盤面に打ち込む」だけしかなく、あとは心理戦の内面描写と、描く際の福本伸行的比喩表現(毒虫の件や素っ裸での斬り合い、など)しかない。
だから物語の構成的に、どうしても将棋本戦に入ると説明台詞が多くなってスピードを落とさざるを得ないので、物語前に一気に上げた感じに見える。


P19の「獣人」右角のカットはデビルマン的と言うか、画の描線の変化にも注目したいところ。
コマの中の黒(右角の髪)の割合が多く重さがあって、他ページの右角の表情と比較すると解る、重ねた荒い直線的で角の立った描線が、ゴリゴリとした筆圧を感じさせる。
右角編の心理戦は素っ裸での斬り合いを経て、心理的なやり取りから物理的な攻撃(P106〜)を伴う。
一手打ち→頭をしばいてから→時計押し。
心理的な戦いからの実際的な発露。これも心理戦の延長線上にある。
そして流れる鼻血。
ボードゲームで流血する漫画もハチワンダイバーくらいじゃないだろうか*3
P111下段のコマに至っては、二人の視線は盤面にはなく、また盤面も描かれず、一手+頭への打撃ではなく、格闘漫画みたいに打撃こそがメインみたいな表現になっている。
そしてその打撃戦は続き、P117 第110話「バカだ」の扉画で真っ白に燃え尽きて表現される。
勿論「あしたのジョー」ですが。


マウスでお絵描き向いてないな。。。

*1:例えば同時間のコマが複数存在する場合や、瞬間をスローモーションのように見せる事を意図した場合、風景や空白を多く描く事で時制から切り離した画のように描く場合などが挙げられる

*2:「棒がいっぽん」「黄色い本 ジャック・チボーという名の友人」など参照の事

*3:カイジ」は耳を切り落としたりもするが