コミック雑誌なんかいらない/1986 日


俺にはコミック雑誌なんかいらない
俺の周りは漫画だから
いつも笑いが絶えないのは/そこに憩いがないからさ
頭にくるも何もありゃしない/ただ吹き出るのは笑いだけ


生涯で観るのは、多分四度目くらい。
考えてみたら、小学生〜中学生の頃は映画なんて大して意識もしてなくってただの娯楽だったのに、内田裕也の出てた『十階のモスキート』『水のないプール』とかはやっぱり異色で幼心に何回も繰り返し観た記憶がある。

..って事で久々に観た。
昔の、昭和の映画のパワーっていうか、今の日本映画の『勘違いしたお洒落さ』なんて関係のない土臭いパワーに溢れたバカ映画。
滝田洋二郎は、これが全盛期だったんじゃないだろうか。
安っぽいCG使った『陰陽師』なんかより全然良い。

芸能人に嫌われながらも(今で言うパパラッチ的な)『恐縮です』を口癖に無鉄砲な体当たりリポートを行う木滑(内田裕也)。
しかしその突っ込み過ぎたレポートは芸能関係者に嫌われ、木滑を持て余したテレビ局は、木滑に風俗レポートの仕事を与え、深夜番組に追いやる。
その頃、金の先物取り引きで詐欺まがいの商法を繰り広げている商社の情報を掴んだ木滑は局の強力も無く独りで情報を集め始めた。


思うんだけどもロス疑惑の故・三浦知義(フルハムロード・ヨシエとか)今の若い人が観てもさっぱり訳が解らなかったりするんだろうなー、と思うと昭和と言う時代が如何に過ぎ去ったかを少し思い出した。自分が年を食ったのも実感。
日航機墜落とか、豊田商事とか、聖子/正輝結婚とか『昭和』って言う時代の凝縮した時事ネタが満載。
よしもとよしともの東京防衛軍に出て来る『昭和の亡霊』みたいなもん。
『しぇけなべいべー』内田裕也の押さえた演技もかなりいい味出してて、今観ても全然面白いんだから凄い。


コミック雑誌なんかいらないのは周りが漫画みたいだからだし、ピエロばかりだから。
滑稽に騒ぎ立てるマスコミ、社会への嘲笑。
内田裕也の突っ張った『ロックンロール』を体現したテーマが突飛なエンディングに繋がっていくんだが、よしもとよしともの『レッツゴー武芸帳*1』のオチとか三池祟史の傑作『デッド・オア・アライブ』のオチ並に素晴らしい。
やっぱり内田裕也ってロックだなぁ、としみじみ。


豊田商事の事件まんまのヤクザ役のたけしがマスコミの前で会長宅に無理矢理押し入って会長を刺し殺すんだけれども、このたけしの迫力ってば一緒に来たヤクザっぽい人よりよっぽど本物っぽいし、久々に観たけどこのシーンだけは(トラウマのように)はっきりと覚えてた。
ちなみにヤクザ事務所に内田がレポートに行くシーンのヤクザは本物だったり、追い返されるシーンのヤクザは偽物なのに、ヤクザを止めに来る警官は本物だったり。虚実の入れ混じった『リアル』『フィクション』の中間に位置する映像の作り方はやっぱりパワーが凄い。


そういえば内田が金の先物の情報を集める為に聞き込みをするんだけれどもこのシーンって『パトレイバーTHE MOVIE』の聞き込みシーンとかに影響与えてるっぽく見える。

*1:1988年 時代考証を一切無視した世界観で繰り広げられる秘剣を巡る時代劇マンガ