SISTERS/2008

sisters
録画しといた長塚圭史作・演出の舞台「sisters」をようやく観ました。
個人的には「失われた時を求めて」「LAST SHOW」「アジアの女」以来の長塚作品。

【続きネタバレがありますので自己責任で】


物語の舞台は、とあるさびれたホテル。
このホテルの女主人である操子が亡くなったことでホテル内の均衡が崩されていく。
操子の死後、経営困難に陥ったホテルのために彼女の夫・三田村優治(中村まこと)の従兄弟である尾崎信助(田中哲司)は、新妻の馨(松たか子)を連れてやって来る。
そこで馨はホテルに住む操子の兄・神城礼二(吉田鋼太郎)とその娘・美鳥(鈴木杏)に出会い、封印していたはずの過去の記憶に支配されていき....。


何かありげな新婚の馨(松たか子)。
まるでコーエンの「バートンフィンク*1」みたいな壁紙の、薄暗い洋室が舞台。
どんどん狂気が浸食して行く構成はケラ作品なんかでもある手だし、「近親相姦」ってテーマ自体も過去に何度も使われている事だしそんなに驚くべきテーマではないのかも知れないけれども、その作品世界の重さって言うのはテーマ如何にある訳じゃあ無くその演出や役者にあるのだなぁ、と思い知らされる。

松たか子のブチ切れた振幅激しい演技も、鈴木杏吉田鋼太郎の父娘像も素晴らしかった。
舞台に満ちる水も、羊水の水の様でもあり、情欲の象徴であるようにも見える。
首を吊る母親の死体、流れ来る彼岸花、死の匂いを隠しきれない石鹸の香り。

近親相姦ってテーマを取り上げつつも、それを糾弾される父親は最後まで決して悪びれるでも無く、遂にはそれを受け入れ、娘共々破滅してしまうってオチはドラマ「高校教師」なんかを思い出した。
父親にとっては歪んだ「情欲」と歪んだ「愛情」の狭間。
娘にとっては純粋に「愛情」の対象。
美しいと感じるのか、おぞましいと感じるのか。
道義とか倫理とか。ありがちなテーマなんだけれども、それを言ってしまえば今更シェークスピアが何度も上映されているのと同じじゃないだろうか。
深遠なる「業」
家族、親愛、情欲と愛情、そして死。

でもテレビドラマでタレントがくっついたり離れたりを繰り返し繰り返し何度も何度も演じるのとは違う。
どのドラマを見てもどっかで観た役者が、どっかで観た女優とくっつき、別れ、またくっつく。
いつまでもいつまでも繰り返し繰り返し。


愛したい、愛されたい。
どんなに歪んでいても、どんなに後ろめたくても。
誰かに必要とされたい、受け入れられたい。
愛されず、捨てられ、死ぬ事も出来ず孤独に生きながらえるのはつらい。


フィクションに必要なのはリアリティではなく説得力なんだな、と知る。

*1:1991年コーエン兄弟監督作品。スランプに落ちいった脚本家がホテルに滞在中、殺人事件に巻き込まれる