ディスコ探偵水曜日/舞城王太郎 2008



【続きネタバレがありますので自己責任で】

お前を信じろ。
俺が信じるお前でもない。
お前が信じる俺でもない。
お前が信じる、お前を信じろ。

[天元突破グレンラガン第八話 あばよ、ダチ公]

迷子捜し専門の米国人探偵・ディスコ・ウェンズデイ。あなたが日本を訪れたとき、〈神々の黄昏〉を告げる交響楽が鳴り響いた——。魂を奪われてしまった娘たち。この世を地獄につくりかえる漆黒の男。時間を彷徨う人びと。無限の謎を孕む館・パインハウス。名探偵たちの終わり無き饗宴。
「新潮」掲載+書下ろし1000枚。二十一世紀の黙示録、ここに完成。



2,100+1,785=3,885円。
極分厚く、氾濫する文字と世界を漸く読破。
実に舞城らしい、舞城にしか書けないだろう長々編小説。


最初は迷子探し専門探偵ディスコ・ウェンズディって奇天烈な名前の探偵と、誘拐犯から取り戻したものの、親が引き取りを拒み、誘拐犯も改心して引き取りもせず行くあての無くなった『梢』って幼女との共同生活から始まって、突然『梢』が成長して、元に戻ってって言うセルフタイムスリップみたいな現象が起きる。
で、『パンダラヴァー事件』やパイン・ハウスって館で起こる『名探偵連続殺人事件』の渦中にディスコ・ウェンズディは飛び込んで行く....ってのが前半戦。

そっからお話は二転三転して、ミステリの枠を越えてSFっていうか意識とか精神とかセカイの話になって行く。
誤解を恐れず言えば舞城版マトリックスとでも言うか。



パインハウスでの件は館に集められた名探偵が順番に推理をして、推理が外れたら目に箸を刺されて死ぬなんていう素っ頓狂な設定からし清涼院流水作品へのオマージュ、あるいはパロディで旧作『九十九十九』に登場するJDCの『神通理気九十九十九とか『世界は密室で出来ている』のルンババとかも登場したりする。

麻耶雄嵩とかばりに言葉が意味を持ちダブルミーニングだったり、暗喩だったり、推理に推理が重ねられて行って、しかし通常言われる『ミステリ』っていうジャンルが一次元的な物語のベクトルしか持ち得ないと言うのであれば、この小説はそこから別の方向へのベクトルを持ち始め、新たな方向性を開いて行く......っていうのは実は本編最後に登場する世界の図になんか近いもんがあって、つまり『閉鎖空間』であるミステリっていうジャンルをジャンルレスに突破して新しい地平を切り開くメタな方向性を示唆してるって言えば感覚的に近いか。

旧作で言えば殊能雅之著『黒い仏(ミステリ meets クトゥルフ神話体系)』とか『キマイラの新しい城(ミステリ meets マイケル・ムアコックエルリックサーガシリーズ)』みたいな、まったく異なるジャンルの小説が何種類か融合していて、しかしそれは決して別ものでは無く一つであるような。
つまり『トマト味噌汁』とか『すき焼きカレーアイス』みたいな。
つまりそー言うもんの気がする。
アンチミステリとか、メタミステリとか、そーいうもんの極北。


冒頭にグレンラガンのカミナの台詞を持って来たのは、文中にある

『この世の出来事は全部運命と意思の相互関係で生まれるんだって、知ってる?』

っていう台詞の先は

自分の世界は自分が信じるように変容する

って言う事で、でもそれは独りの力だけでは無くって、人は独りで生きて行くんでは無くって誰かに見られて、思われて自身の世界を保ってる。
独りの『観察』では世界に限界があるし、それにしても世界は広い。

映画『マトリックス』の最後でネオはバーチャルな『世界』を意思の力で超越し『万能』な力を得て世界を支配下に置く。
それは『神』に近しい。
この『ディスコ探偵水曜日』でもディスコ・ウェンズディは『意思』の力で世界を思うままに操り、時間も超越する力を得る。しかしそれでも『世界』は広くて万能では無く、死に行く世界の中で世界の為に○○を○○し、世界を構築するシステムに逆らい、老いて行く。
小さなテロリスト、万能の力を持つ誘拐犯。


時間軸の複雑さや重複する無数のトリック、暗喩に重ねられた暗喩等々入り組みまくったアウトラインはとても難しくって正直全体の80%くらいしか読解しきれてない感じがするんだけども、長大で重厚なストーリーはたっぷりと実が重くジューシーで、かぶりついてもかぶりついても飽きる事が無い複雑で奥深い味に、尽きる事無く溢れる果汁は両手からこぼれ落ちて行く。

舞城の到達点、って言うか集大成。

それでも俺は意地になって それでも俺は意地になって
それでも、それでも、それでも俺は意地なって
求め続ける、求め続ける、求め続ける 脳が揺さぶられて頭ん中が
サアーとするあのカンジを それはどこにある?どこにある?どこにある?

日曜日の真っ昼間 俺は人混みに紛れ込んでいた 
強い日差しが真っ白けっけの店ん中に混ざりこんでいた
若い父親と小さい娘がなんか美味そうなもんにかじりついていた
笑っていた ガキが笑っていた
なーんも知らずにただガキが笑っていた
純粋な、無垢な、真っ白な、その笑顔は
汚染された俺らが生み出した
この世のすべてを何も知らずにただ笑っていた

[自問自答 ZAZENBOYS]


ついでにKIMOCHI