ロコ!思うままに/大槻ケンヂ 2006
きっと、ロックは、
自分は何てダメ人間なんだろうと、
はいつくばって生きている連中にとって、
最高の救済手段なのだ。
大槻ケンヂ短編小説集。
とはいえ本書に初出のモノは少なく、既出モノと書き下ろしを合わせた内容で、ムック『英雄譚』に載っていた『イマジン特攻隊』は個人的に既読。
冒頭の中島らもに捧げた一行がちょっと切ない。
【ロコ!思うままに】
異常な妄想に取り憑かれた父親によってお化け屋敷に閉じ込められたロコ。ロコはお化け屋敷に迷い込んだ少女に生まれて始めての『恋』をする。
表題作。
大槻版『ITと呼ばれた子』というかケッチャム『隣りの家の少女』を思わせ...。
勿論『イタさ』では『隣りの..』に比べるべくも無いが、主眼は『イタさ』よりもレニクラ『自由への疾走』の部分にあって、やっぱり本質は『ロック』
自由を求める魂のお話。
Are you Gonna go my way.
【モモの愛が綿いっぱい】
息子と妻を同時に無くした男は、ある時クレーンゲームの中に居るクマが自分を呼ぶ声に気づく。
魂の救済、のお話。
『ヌイグルマー』っちゅーか『ブースカ』っちゅーか、大槻とか押井守とかほんと『人形』が好きだねぇ、ってしみじみ。
結局救われちゃうんだけど、個人的にはもっとモモ次郎と行き着く所まで行って欲しかったなぁ、とは思うがそれこそが『一昔前の大槻との違い』って言う部分なんだと思う。なにせ変態魔王のリンチだって『ストレートストーリー』を撮る時代だから。
【ドクター・マーチン・レッド・ブーツ】
超名著『ロッキンホースバレリーナ』の変奏曲かと思いきやどちらかと言えばホラー版『リンダ・リンダ・ラバーソール』
古典の怪談話みたい。
【怪人明智文代】
『明智小五郎真犯人説』だの乱歩作品には色々と解釈があったりもするんだけども、これは大槻版『明智の妻に関する考察』
大槻だの塚本晋也だの乱歩好き多し...。
【キテーちゃん】
サ美リたちは退屈な文化祭で不格好に突っ立っているピンクの着ぐるみを見つける。不細工な外見のそれに『キテーちゃん』と名付け、サ美リたちは残酷にもてあそぶ事に決めた。
異形と幼児さ故の残酷さ、ってのは『ステーシー』とかでも描かれてる事ですが、妙に綺麗に短編にまとめてる。
読後感の悪さって意味で短編集の中でもかなり良質な一編。
オチが落語みたいなのはちょっと気になりはするものの。
【ステーシー異聞 ゾンビ・リバー】
タイトルまんま。ステーシーの外伝。
ゾンビの川って...イメージが凄い。
【アイドル】
個人的にはこの短編集で一番好きなお話。
セックスにふけるアイドルとバンドマン、って執拗なセックス描写からかなりイタいお話に持って行って。隣りの部屋で..って辺のイメージを具体的に頭の中に描いたらかなり怖い画になった。
清水崇に撮って欲しい。
大槻って『がらんどうの少女』ってイメージ好きね。
【天国のロックバス ロコ!もう一度思うままに】
ロコと言いながらも最初の短編と繋がりは無く、ロコってのは『ロック未満の』未熟な存在って言うか、そう言う『エターナルチャンピオン』みたいな冠なんでしょう。
今作品集でも名前が結構被ってたりしてそれぞれの名前がそのキャラクターの本質を共通して表しているように思う。
『今だからこそ』描かれた、って展開ではある。
相変わらずの言葉選び、世界観。
とはいえ「作家大槻ケンヂ」として文章力はやっぱり格段に上がってるし、構成もそこら辺の専門の作家より余程上手い。
全体を通じてかなり『ロック』な仕上がり。
『ロックとは?』って考えたり求めたり『生きるとはなんぞや?』とか自分のレゾンデートルを真剣に考えてみたり、コンプレックスにまみれていたり、結局自分には何も無いのと鬱になるような、そういう『ダメ人間』こそやっぱシンパシーを感じてしまうんだろうなぁ、と大槻ケンヂの世界を垣間みるといつも思う。
ロックをテーマにした作品はどれも『ダメ人間への讃歌』なのだろうと思う。
それは大槻以外でも『アイデン&ティティ』でもいにおの『ソラニン』でも『イヤーオブザホース』ですらそうだろう。『ファントム・オブ・ザ・パラダイス』でデパルマが描いた『サイケデリックな狂乱と孤独なダメ人間の地獄』ですらそう....いやあれはアンチテーゼか。
まぁ、いい。
たかだか音楽が、
時に騒音とさえ嫌悪されるサウンドが、
それを「大好きだ」と思う心ただ一つで、
多くのダメ人間に、
友を与え、
希望を教え、
未来へと彼らを運んでみせる。
だから、ダメ人間な自分はいつも大槻の世界にハマる。
..って事はダメ人間じゃない『アイデンティティ』が確立した『立派な成人』は読んでもいまいちでしょう。