DON'T COME KNOCKING/アメリカ、家族のいる風景 2006米

かつては西部劇のスターとして一世を風靡したものの今や落ちぶれてしまった老役者ハワード・スペンス(サム・シェパード)。
ある時、彼は衝動的に撮影中の現場から失踪。数十年会っていなかった母親の元へ逃げ込む。
彼は母親から、かつての恋人が妊娠して自分の子供を産んでいた事を知らされる。
彼はかつて捨てた女性に、自分の子供に会う旅に出かける....。

個人的にはヴィム・ヴェンダースと言えば『アメリカの友人』『パリ、テキサス』なんかはほんと素晴らしいと思うんだけども『東京画』とか『ベルリン天使の歌』とかは世間の評価の割にはあんまし合わないなぁ、とか思ってみたり。
まぁ今改めて観るとまた感想が違うのかも知れないけども。
なんか、まったりし過ぎて画変わりが感じられないのは辛い。
とはいえ「エレファント」みたいに台詞じゃなく画で語ってる映画は好きなのだけども。


んで『パリ、テキサス』以来のヴェンダースサム・シェパードコンビ。
しかも今作ではサム・シェパード主演&ジェシカ・ラング共演ってのもなかなか注目(色んな意味で)。
ストーリーのアウトラインはまんま『パリ、テキサス』なんだけども『パリ、テキサス』の乾いた画面とは違って、赤の色彩が強かったり青い空が強かったりって画面から受ける印象はデヴィッド・リンチ的、っていうか彩度が強くて色彩がくっきりしてる。
写真で言うとLOMOっぽい。LC-Aとかの感じ。


人通りの無い、アメリカの田舎町。
ショーウィンドウみたいなガラス張りの中にジムがあって鍛える人々、
その前で喧嘩するサム・シェパードジェシカ・ラング
ガラスの向こうの喧嘩とかキスとか。結構シュール。
誰もいない街の中。
画作りもいちいち面白い。


音楽も良い。
ハワードの息子が飲み屋で歌ってる歌がかなりリンチっぽかったり。
A・バザラメンティでは無いけども。


酒を飲んだら気が大きくて、ガラスの向こうの仮想のボクサーならいくらでも殴れる。
パリ、テキサス」のマジックミラーの向こうの妻を思わせる。


人は独りで生きてる訳じゃなくって人と関わって生きて行くし、生きれば生きるほどそのしがらみは増える。
愛を無くして、何もかも無くして孤独に生きる男が、老いて自分を見た時、
その不安からこれまで切り捨てて、逃げて来たものと向き合おうとする。
それは家族だったり、責任だったり、人と人との繋がりだったり、生きて来て積み重なってきた幾つもの生きた証。
でも結局向き合いきれないままとっ捕まって、逃げる事も出来ず、
そこでようやく向き合う事が出来るって言う、ホント情けないおっさんの映画なんだけども、実にシンパシー感じるのはオレも同じく逃避指向のダメ人間だからか。
あー、自分を見るようだわ(妻も隠し子も居ませんが)。


実は結構、説明好きな映画で、
冒頭流れる歌なんてまんまハワードの事だし、
最後、母親の違うハワードの娘と息子を乗せた車がハイウェイを走る。
その標識には、
『Divede1 Wisdom52』
なんて描いてあったり。


パリ、テキサス』とやってる事は変わらないんだけども、でもやっぱりとても面白い。
味わい深い素晴らしい渋めの名作。