虹ヶ原ホログラフ/浅野いにお 2006

マンガ「虹ヶ原ホログラフ」に関しての考察の長ったらしい幾つかの文章をくっつけて、成形して1つにしたので余程のマニアでない限りは以下お勧めしません。多分普通の人が読んでも意味が分からないと思うから。
よくこんな長ったらしいものを書いたな、我ながら。
実際に「虹ヶ原ホログラフ」を持ってないと読む必要は無いかと。
問題の回答集を問題を知らずに読んでも仕方無いので。


って事で老人の独り言。
どうぞ。。。
あ、ちなみに浅野いにおはあんまり好きじゃありません。

そういえば、ここらの小学生の間で変な噂が流行ってますな。
確かトンネルの.....。

昔者、荘周夢為胡蝶。
栩栩然胡蝶也。
自喩適志与。
不知周也。
俄然覚、則遽遽然周也。
不知周之夢為胡蝶与、胡蝶之夢為周与。
周与胡蝶、則必有分矣。
此之謂物化。

虹ヶ原。
小学生の間で『トンネルの中の怪物が世界を終わらせる』という噂が流行する。
教室では、お決まりのイジメの構図。
事故で昏睡状態のまま眠り続ける少女。
そして11年後..。


近藤和久の初期のホラー作品を思い出した。
とか言っても絶対伝わらない比喩だな....つまり「コミックボンボン」に載ったデビュー作「血を吸うマンション」とか...つまり、つまるところ大友克洋の「童夢」辺の血の臭いがする。。


浅野いにおは、デビュー作「素晴らしい世界」からリアルタイムで読んでる。
その割に認めてない部分があって、それはやっぱり浅野いにおが先行する作家の影響下から抜け出てない部分が見えるからで、例えばよしもとよしとも黒田硫黄松本大洋らの作品を先に読んでいれば
「これってxxxxだよな」
って思ってしまう部分が多々散見出来るし、それを知らずに読むのと知って読むのとでは大きく違う。
言ってしまえば影響を与えた作家の作品の方が完成度は高くて、同じ読むのなら元の作家を読めば良い、と思ってしまうし、評価も下がるって脳内の仕組み。
サンプリングするならそれを処理する手管によって評価は変わる。
前知識も無く「既存作からのサンプリングの集積」浅野いにおの作品を読んでも感動されて「いにおって凄い」とか言われてもな、って感じはある。
しかもそのサンプリングもそれほど巧いとは感じない。
それなら岡崎京子の方が余程凄い。


さて、今回も全体を包む諦観は変わらず、ただ
「下らなくも素晴らしき世界、それでも僕らは生きて行くんだ」
って青春ロック系なメッセージ性は薄くって、諦観が諦観のまま終わるのが浅野いにおらしくない。
だからこそ「こんな作品はもう描けないと思います」って作者本人が言ってるんだろう。
似合わない事はやるもんじゃあ無い。


映画で言うと「害虫」なんかのニュアンスに近いか。
悪意が悪意のまま昇華されずに収束して行く。
それぞれ各キャラの行動はリビドーと破壊衝動に裏打ちされる。
そしてリビドーの収束先は「木村有江」に向かっている。
冒頭の(老人の自分と話す自分)台詞にあるように「蝶の夢」から昏睡状態の少女が蝶になるってのは常道的表現。


アマヒコと有江が双子の兄妹で、両親それぞれに引き取られてそれぞれが再婚して鈴木と木村になる。
鈴木父は別れた妻の影を有江に見て、病院で植物状態の娘を犯し続ける、と。


これまでの浅野いにお作品の中で言いたい事が捻くれてて、一番こんがらがってて、
悪意と性欲の有る人間ばかりが登場して、ことごとくレイプとロリコンで良いかも知れない。


>>>以下、ざっくりとまとめ



精密さには拘ってないんで、ざっくりと。
言っちゃえばこれって碇シンジ=アマヒコなエヴァ
並べるとよく解る。
不確定性原理っつーか、量子力学的な、シュレディンガーの猫的な
「観測者の認識による世界の補完」だったりする。
諸星大二郎暗黒神話」をサンプリングした「エヴァンゲリオン」をサンプリングした「虹ヶ原ホログラフ」か。。

昔者、荘周夢為胡蝶。
栩栩然胡蝶也。
自喩適志与。
不知周也。
俄然覚、則遽遽然周也。
不知周之夢為胡蝶与、胡蝶之夢為周与。
周与胡蝶、則必有分矣。
此之謂物化

ってあるように『世界が誰かの見ている夢』だとすれば果たして『世界は自分の見ている夢』なのか、それとも『自分を含めて世界は誰かの見ている夢なのか』


『ある少女』=有江
ってのは良いとして
『七人の村人』ってのはハッキリしない、と言うか描かれてない。
はないちもんめの参加者。
名前のある登場人物は(殆どが集団からの逸脱者なので)除外される、って事でしょう。
『怪物』はアマヒコ/有江の母親であり、教師の榊がその位置で、循環する物語の形式としてもしこの作品に続編が存在するとすれば榊の双子の子供の物語って事になる、と。


アイテム『ブリキのハコ』は、
病院の屋上で未来の年老いたアマヒコ(同じ名前の神様)から小学校五年生のアマヒコに。
小学校五年生のアマヒコは川縁に立つ(虹ヶ原に帰って来た)アマヒコに手渡す。
年老いた老人に関しては名前が「アマヒコ」であるくらいしか解らない訳ですが、幼いアマヒコは
「ハコを手渡して蝶に姿を変えて消えてしまった=神様」
という認識なんだろうと思う。
混乱した時系列の解消とも見れるし、つまり
『有江と再会した後の未来のアマヒコは蝶であり、自身の世界の観測者である』
という暗喩にもとれる。


アマヒコは母親を倒錯的な性の対象と見なしていて、
だから榊に胸をなでられ勃起したり、有江に母親の影を見て首を絞めながら犯そうとする、と。
あるいは描かれていない何かがある、か。
アマヒコにしろ有江の父にしろ『近親相姦』的な臭いは強い。


『観測者によって世界は変化する』し、
世界は無限に存在し得る訳であって量子力学的な(エヴァ的な、京極夏彦的な)世界観だからこそ
『小松崎は荒川と付き合っている平穏な世界』に。
『荒川は小松崎が常に部屋に居る世界』に、と世界が多重に存在する。
それを並列に描くからややこしい。
荒川が蝶を握りつぶすのは
『世界の観測者たる有江の意識外に自身が観測者となり自身の世界を持ち得る>パラレルな世界』
と言う事を指す暗喩だと思うんですがね。
荒川の観る『荒川と小松崎』と、小松崎の観る『荒川と小松崎』の世界が違う、
パラダイムの差異は世界の差異と同等であって。


循環する世界、ってのを表現してるのが『四季』を意図的に描いてる部分だったり。
『春夏秋冬、そして春』みたいなリ・インカネーションとカルマの物語って意味で共通してるものがあったりもする。
『輪廻』『因果』と『業』という仏教的な思想がキーワードになると思う。


唯一、時節の変化として描かれる描かれる『季節』は勿論グルグルと巡り、有江>高浜>アマヒコと学校でのイジメの構図は終わる事無くグルグルと回る。
有江の語る『ある少女と7人の村人とトンネルに住む怪物の物語』は終わる事無く繰り返し、日暮(兄)は独り部屋で有江の人形を相手に終わる事の無い物語を聴き延々ノートに書き続ける。
世界は終わる事無く永遠にそれを繰り返す。
世界の全てを見る件が首を切り死に、双子が現れ、再び件が死に双子が現れる。


人は生きる上で『業』を重ねる。
人は何かを殺さずに生きる事は出来ず、『業』は積み重なる。
何かを殺し命を奪い、その肉を食い、自分の血肉として生きる。
生きると言うのはとても罪深いもので。
だから何かをして『因』が発生すればその結果として『果』を向かえる事になる。
『因』として娘を犯した『果』として父親は投身自殺をし永遠に苦しみ、『因』として家族を殺し少女を犯した男はその『果』として少女の語る話を永遠に書き取り続ける。『因』として男に告白した少女は、『果』として男を手に入れ二人部屋で過ごす。
因果もまた巡る。『業』を重ね、『因果』の中、『輪廻』し、永遠に繰り返す。
神様が辟易するくらい絶望的な世界は、いつまでも終わらない。


しかし世界は意識によって変わる。
それをどう受け止めるか、によって世界は幾らでも分岐し、観測者の意図によって未来は変わる。
世界は一つではなく存在しうる。
救われる術は幾らでも残っている。
因果に因って回る輪廻、そして魂の救済。


>>>虹ヶ原/時系列に並べてみる


・件の死(冒頭の一コマ 象徴?)>双子の件
・アマヒコ/有江が産まれる。
・アマヒコ両親が離婚、母親に。有江は父親に引き取られる。
・アマヒコ、埼玉で母親再婚。姓が『鈴木』に。
・アマヒコ/有江の実母が失踪(埼玉>虹ヶ原へ?)
・アマヒコ義理の父親が再婚。


『夏/雨』
・アマヒコ/有江の実母が虹ヶ原のトンネルで死体となって発見(件の死>双子の件)>
☆母親のペンダントが二つに


・日暮(兄)、有江と虹ヶ原で出会う(有江が泣いていたのは母の死が原因)>有江が『DIARY』に物語(『ある少女と7人の村人とトンネルに住む怪物の物語』)を日暮(兄)の日記に書く。
☆母親の『蝶のペンダント』が有江に
☆『蝶のペンダント 右』片方が日暮(兄)に。『左』は有江。


・日暮(兄)、有江をレイプ>女教師、榊が助けに現れるが日暮(兄)にブロックで殴られる>日暮(兄)逃走(小松崎は事件を目撃している)


・有江の父 木村、有江を襲おうとするが未遂>小松崎が木村に有江の母の影が取り憑いているのを目撃。


・有江、虹ヶ原トンネル穴に突き落とされる>植物状態
・アマヒコ飛び降り>入院
>有江とアマヒコの落下が時系列的に同時期である方が暗喩的


『春?秋?』
・入院先の病院屋上でアマヒコ未来の自分からハコを渡される(成人のアマヒコも居て、同時性、時系列が混乱している)
☆『ブリキのハコ』が未来アマヒコ>過去アマヒコへ


・有江、植物状態のまま父親に犯される(日常的?)


・木村、有江の墓前で鈴木の頭を花束で殴る。


・(台詞から)日暮(妹)兄の日記を覗く


『春』
・アマヒコ転校(第一話)
・アマヒコ『ブリキのハコ』を開けようとするが未遂。
・(レイプから一年後)日暮(兄)、蝶と有江の声を聴く
『見えるの 見えるの あたしには見えるの この世の中の全てのできごとが』
・高浜、学校でイジメを受けている。
・荒川、小松崎に告白するがフラれる。


『夏』
・小松崎、若松にブロックで殴られ虹ヶ原トンネルの中へ。


『秋』
・高浜、イジメを教師に報告>若松に体罰
・アマヒコ、高浜を突き落とそうとする。
☆アマヒコ、虹ヶ原で日暮(兄)と出会い『蝶のペンダント 右』を手渡される。


『冬』
・アマヒコへのイジメ(無視)>日暮(妹)と駆け落ちの約束。
・日暮(兄)家族殺害(金づち)家に火をつけ逃走。アマヒコと出会う(日暮(妹)が現れなかったのは殺害されたから?)
☆アマヒコが雪の中倒れる>『蝶のペンダント 右』がドブ川に?


『春』
・小学校五年生終業。
・教室の隅に積み上げられた三つの机(有江、小松崎、日暮(妹))
・体育教師、五年生終業式で教師を辞めコンビニ経営。
・榊、教師を辞め羽鳥と結婚。
☆『ブリキのハコ』が過去アマヒコ>現在(成人)のアマヒコへ
・アマヒコ、両親と共に虹ヶ原を離れる。


ーーーーーーーーーー(時間の経過)ーーーーーーーーーー


・アマヒコ18歳の時、義理の母親が死亡。
・榊、双子の母親に。
・有江父、元体育教師の経営するコンビニでバイト。
・小松崎、上記同コンビニでバイト。
・日暮(兄)、身分を偽って虹ヶ原に。prisom cafe開店。
・荒川、prism cafeでバイト。
・若松、警官に。


・アマヒコ病院で老人になったアマヒコ自身と出会う(時系列の混乱)


・小松崎、荒川と再会。


・小松崎、コンビニ店長若松を殺害>虹ヶ原トンネルへ。
(穴の底で有江の影と蝶を見る)


・荒川、prism cafe店長(日暮(兄))の部屋へ。


・高浜、バットを持って学校でガラスを割る。


・榊、羽鳥と離婚の話。
(アマヒコ/有江両親と同じ構図。児童虐待? 榊=件?)


・アマヒコが十年ぶりに虹ヶ原に帰る
(父親は半年前に死亡>P162 過去の自身との出会い 時系列の混乱)


・荒川、日暮(兄)とSEX失敗>日暮(兄)荒川の殺害未遂。
・小松崎、虹ヶ原で日暮(兄)を殺害未遂(過去の事件での復讐?)


・高浜、学校で小学生を刺す。


・日暮(兄)瀕死状態でprism cafe二階>警察が発見し病院へ。
『うんめいによってはなればなれになったちチョウがひとつになって』


・小松崎、トンネルの中で片目の怪物(榊=件)を目撃、ペンダントの片方を拾う
☆『蝶のペンダント 右』が小松崎から荒川に


・有江実父、病院から投身自殺。
・有江、蝶に。


☆『ブリキのハコ』が過去アマヒコ>現在のアマヒコへ
・『ブリキのハコ』が開きアマヒコは家族の幻影を見る。無くしてしまった一番大切だった時間?


・アマヒコ、墓地で荒川と再会(日暮(兄)は死亡?)
☆『蝶のペンダント 右』荒川からアマヒコに


・アマヒコ、有江と出会う。
(二つが一つに>補完)


・榊、首を切られた死体として発見(新たな循環の開始を示唆する? 件の死>双子の件)